食の深淵に立つ者の哲学
Ristorante SHIKAZAWA リストランテ シカザワ

人は死を悼むことのできる唯一の動物であり、また自らの生と他の生物の死との密接な関係を自覚できる唯一でもある。食の根源にある原罪と、それに対する贖罪の在りかたとは。そんなことを、『シカザワ』の料理を前に考える。三陸の磯場をジオラマで表現したようなアミューズは、山田町産帆立のクリーミーなスープを閉じ込めた儚き球体。冠にしたキャビアを呼び水に、たわんで弾け、口中に旨みが満ちる。
「震災が大きな転機でした。それまでも生産者との繋がりやいい素材のための環境づくりなどを大切にしてきたつもりではありましたが、すべてを一変してしまうあの大震災を経たことで、自分にできることは何なのか、料理の力とは、ということをより深く突き詰めるきっかけになったと思います」
「蜂の巣と南部鉄器」と名付けられた前菜。クリスピーな球体の中には、鮮やかな甘酸っぱさと冷たさのラタトゥイユ。熱せられた南部鉄器と球体の間ではチーズがじりじりと焼かれ、味わえばチーズの芳しさと熱が冷たいラタトゥイユとせめぎ合い口中にドラマが生まれる。まるでヴァニタスのような静謐さを有する姿なのに、秘めているのは狂騒とさえ言えるおいしさ。料理でしか表現できない芸術だ。
普代村から届いたサワラは、冬から春にかけて登場するひと皿。白金豚とともに炊いた宮古産の昆布をバターでのばしたソースで。近年、海水温の上昇によって三陸でも多く揚がるようになったサワラと、ブルーカーボンの代表である昆布との邂逅に、我々は三陸の現在を見るだろう。柔らかな繊維質の身にふっくらと回ったジュ、昆布の味わい。素揚げにしたオカヒジキの香ばしさがいいアクセントだ。
花巻市・石黒農場が循環型の飼育法で育てたホロホロ鳥。その胸肉と腿肉、ふたつの部位の異なる魅力には、熟成感あふれる白ワイン、ヴァン・ジョーヌとモリーユ茸で仕立てたジュラ地方伝統のソースを。ソースの豊かな香りに、ホロホロ鳥の滋味が際立つ。岩手県における西洋野菜栽培の雄・岩手町の田村孝美さんが育てたヤングコーンの甘さと芳しさも、岩手の里山風景を鮮やかに描き出している。
料理を楽しむことは快楽である。しかし快楽を長く豊かに楽しむためには哲学が必要だ。獲るからにはすべて食べきる覚悟や技術を持ち、守らなければ荒れ果てる環境にどうアプローチしていくのかを考える。『シカザワ』の料理は、そんなテーゼに満ちている。


Ristorante SHIKAZAWA
- 住所
- 盛岡市菜園2-4-6
- 電話
- 019-681-8511
※前日までの完全予約制(3カ月前より予約受付開始)
- 営業時間
- 水~日曜12:00~14:30、18:00~21:00、火曜18:00~21:00
- 定休日
- 月曜
- 席数
- 6席
- 予約
- 可
- 目安
- 2万2000~2万4000円
- カード
- 可
- 喫煙
- 全席禁煙
- メニュー
- 本日のコース 1万3200円
ワインペアリング +8800円
ペアリング(ノンアルコール)+6600円
- 住所
- 盛岡市菜園2-4-6
- 電話
- 019-681-8511
※前日までの完全予約制(3カ月前より予約受付開始)
- 営業時間
- 水~日曜12:00~14:30、18:00~21:00、火曜18:00~21:00
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※本記事の情報は掲載時の情報です
- 取材・文:ナルトプロダクツ
- 写真:池上勇人、齋藤太一