規模もユニークさも東北最大級
館鼻岸壁朝市

冬の午前5時はまだ夜だ。館鼻岸壁に寄り付いたイカ釣り船はまだその灯を消したばかりで、昏い海がたぷたぷと波打っている。なのに陸にはわらわらと大勢の人が集まり行き交い、船の灯にも比肩するほどの明るさで皓々と闇を照らしている。
かつては陸奥湊の駅前で、駅前の店舗が店を開けない日曜を補うように開催されていた朝市だが、2004年にここ館鼻岸壁へ場所を移したという。
「その当時は約40店舗ぐらいの規模だったけれど、場所が広くなったことでそれならと参加を希望する店が増えて、翌年には150店舗ぐらいまで増えました。現在の名簿登録数は、309店舗。売り物も、最初はほんと海産物や野菜、加工食品ぐらいだったのが今では古物商以外は何でもありの状態ですが、どれもお客さんの厳しい眼に育てられた商品ばかりなので、いいもの、うまいものが揃ってますよ」
理事長の慶長春樹さんはそう経緯を教えてくれた。夏場なら朝4時には店が開き始め、冬でも5時には大方の店が揃う。そして8時半を過ぎる頃にはみな売り切って店じまいを始めるというからまごうことなき「朝市」だ。東日本大震災では、会場である館鼻岸壁はもちろん、ひとつひとつの商店がそれぞれに少なからぬ被害を受けたが、それでも大勢の参加店が「何かの役に立ちたい」と奮起、震災からわずか3カ月後の6月には岸壁に店を連ねたという。
「出店の場所はみんな決まってるから、ここで無事の確認をして抱き合った人たちや、状況を聞いて助け合ったりする人も多かったですね。そういうあったかい雰囲気があるから、お客さんも買い物してすぐ帰るのではなく、いろんな話をしたり飲んだり食べたりして長くとどまってくれるんじゃないかな」
出店の規模は全長約800m。鮮魚に冷凍魚、干物、野菜に乾物といった昔ながらのものもあれば、手作りのアート作品や雑貨、スイーツ、テント席を設けた汁物やそば、ラーメンも。キッチンカーにオーブンを搭載して焼きたてあつあつのパンを販売する店まである。揚げるそばから売り切れてゆく「大安食堂」の「しおてば」など、ここで人気に火が付いた名物も多い。そして、朝市公認アイドル「pacci」のパフォーマンスや神出鬼没の「イカドン」を取り囲む輪も厚い。「買い物だけじゃない何か」を求める人たちへのユニークなアンサーであり、出店している人たちも心からこの朝市を楽しんでいるのだな、と分かる一幕だ。
2025年、『館鼻岸壁朝市』の冬季休業明け一発目は、3月16日。今年はどんな名物が生まれるか、今から楽しみだ。






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- 取材・文:ナルトプロダクツ
- 写真:齋藤太一