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次の世代につなぐため 森に倣った畑に挑む

酒井ワイナリー

  • 南陽市
  • お酒
  • ワイン
  • ワイナリー
記事制作:
Kappo
酒井ワイナリー

約10年ぶりに酒井ワイナリーの畑に立ち、これがブドウ畑なのか…と呆然とした記憶を思い出す。鳥上坂北側にある名子山の畑は野趣に溢れていた。傾斜30度という急勾配は歩くことさえままならず、膝まで伸びた雑草を縫うように歩く羊を目で追っていた。

現在もさまざまな植物が生い茂っている。「森を模倣しているんです」と5代目の酒井一平さん。「多種多様な生物が互いに影響し合いながら共存する森の中にブドウが存在する状況を作りたいと考えています。森の有り様は同じように見えますが、土地によってタイプは異なり、それがブドウの個性になるのです」

除草剤や殺虫剤を撒くことも、化学肥料に頼ることもせず、循環型かつ持続可能な農業という視点でブドウ栽培に取り組んでいる。放牧している羊には畑の雑草のほかブドウの搾りカスも食べてもらい、糞尿を畑の堆肥にする。「やっていることは100年前と変わらないと思います。これから環境は否応なく変わっていきますが、それに適応できるブドウはどれなのか。昔のやり方に戻り、その中で得られるヒントを探しています」

大沢山の一角に、高齢者から引き継いだデラウェアの畑がある。雨避けビニールを施した場所では改植の準備を進めながら栽培を継続し、その下手にメルロやシラー、プティ・ヴェルド、アルバリーニョ、プティ・マンサンなど10種類ほどの苗木を混植している。「とりあえず植えてみる。トライ&エラーを繰り返しながら、この土地に合う品種が残っていく。次の100年に備えるための、今が黎明期なのです」

一平さんは秀逸なワインの造り手としても注目を集めているが、「ワイン造りに関しては無意識を目指している」という。「こんなワインを造りたい、あのワインに近いものを造りたいという意識が、本来あったものを見失ったり揺るがしたりする。その土地の味がするワインができるのは、醸造の知識や技術ではなくブドウのおかげと言う方がよっぽどいいし、それが酒井ワイナリーらしさではないかと思っています」。

酒井一平さんは東京農業大学大学院卒業後、2004年からワイナリーの仕事に就き、2014年に代表取締役に就任。「オリジナルに到達するには無意識的なものに頼らざるを得ない。だから畑も自然や動物に任せているのですが、遊んでいるように見えるかもしれませんね(笑)。でも、そういうところから始めないと何も変わらないと思っています」と話してくれた。

赤湯は豪雪地帯で1.5mの雪が積もることもあるが、「雪もいい影響を与えてくれる」と一平さん。雪解け水は平均12℃を保って沢から湧き出し地温を低く保ってくれるので、強い日射しが注ぐ大沢山の畑のブドウも夏枯れしない。

1892(明治25)年創業は東北最古の歴史を誇る。ノンフィルターであることは当時から変わらず、契約農家のブドウも使いながら現在は年間約4万本を生産している。
酒井ワイナリーを代表するフラッグシップワイン「名子山」。
(左から)
鳥シリーズ「灰鷹2021」
750ml/3520円
寒河江市の契約農家が栽培したカベルネ・ソーヴィニヨンを1年間樽熟成。柔らかな味わいの中に豊かなコク。果実の瑞々しさと酸のバランスもいい。

小姫さん
2022 750ml/2530円
デラウェアを自然発酵。亜硫酸を添加しないサン・スフル。デラウェアの自然な味わいを大事に醸している。

鳥シリーズ「翡翠(かわすみ)2022」
750ml/2530円
寒河江市産のソーヴィニヨン・ブランをステンレスでスキンコンタクト、長期シュール・リー。ふくよかな果実味とキリリとした酸味があり、余韻にしっかりとした旨み。

酒井ワイナリー

住所
山形県南陽市赤湯980
電話
0238-43-2043
駐車場
3台
定休日
水曜(臨時休業あり)
住所
山形県南陽市赤湯980
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0238-43-2043
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営業時間
13:00~16:00、土・日曜10:00~16:00(12:00~13:00除く)
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※本記事の情報は掲載時の情報です

  • 取材・文:川野達子
  • 写真:池上勇人