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平安〜大正時代の歴史的建造物が遺る上田を探訪

信州遺産の輝き 上田編

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記事制作:
KURA
信州遺産の輝き 上田編

上田市は、戦国武将・真田家ゆかりの地だが、鎌倉・室町時代からの寺社仏閣も点在、国宝や重文も多い。また、近代日本を支えた産業遺構もあり、建造物からまちの歴史を振り返るのもいい。

安楽寺 八角三重塔 - 禅宗様の日本唯一最古の木造八角三重塔

日本で唯一の木造八角形の三重塔が、信州にある。松本城とともに信州ではじめて国宝に指定された安楽寺八角三重塔だ。その歴史は古く、建立から既に700年が過ぎている。曹洞宗である安楽寺の境内に立つこの塔は、垂木、木組、彫り物、礎盤など、全体にわたって禅宗様式で設計されている塔としても貴重な建造物だ。
本堂を左手に進んだ先、杉木立に囲まれた静寂な場所に三重塔は立つ。塔に設えられた連子窓や、彫刻かと思わせるほど手の込んだ詰組がオリエンタルな雰囲気をつくり、華やかさを添えている。外に向かって伸びやかに広がる扇垂木と、踊るようにリズミカルな反り返った八角の屋根が、建物に躍動感を与えている。そのリズミカルな屋根を数えれば、三重ではなく四重ではないかと思うが、裳層付三重塔といわれるもので、一番下の屋根は一層目の庇(裳層)であり、正真正銘の三重塔なのだ。
その一方で、裳層の下は上層に比べて幅と高さがありどっしりとして見える。その落ち着いたたたずまいは母のような温かさと静けさをあわせ持つ。
仏の遺骨を納めるこの塔は、周りを檀家の墓にぐるりと囲まれてともに立つ。静けさをまといながら、周囲に眠る人々を温かく包んでいるようだ。

杉木立のなか、どっりしりと立つ姿は母のような温かさがある。安楽寺は常楽寺、長楽寺とともに別所三楽寺と称される古刹
鎌倉時代中期には既にあったと考えられる安楽寺。塩田北条氏により栄え、多くの学僧を育てた

安楽寺 八角三重塔

住所
上田市別所温泉2361
電話
0268-38-2062
アクセス
上田電鉄別所線別所温泉駅から徒歩15分、上信越道上田菅平ICから30分
住所
上田市別所温泉2361
電話
0268-38-2062
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独股山 前山寺 - 四季の彩りに包まれ佇む未完成の完成塔

独鈷山の山麓、眼下に塩田平を見下ろす前山寺。弘仁年中(812)空海上人が護摩修行の霊場として開創したと伝えられている。当初古義真言宗として法相、三論両宗を兼ねていたが、元弘年中(1331)讃岐国善通寺より長秀上人が来止し、正法院を現在34の地に移し、前山寺を開山。塩田城の鬼門に位置していたため塩田北条氏の祈祷所ともなった。本堂は、間口十間、奥行八間の木造茅葺、本尊は大日如来を安置。1m以上もある茅葺屋根の厚みは、寺の由緒を象徴している。(国の登録有形文化財)
境内奥には、昭和25(1950)年に国の重要文化財に指定された三重塔がある。建立は室町時代初期と推定。高さは19.5m、二層と三層の柱に長押仕口がありながら、窓も扉もなく、廻廊も勾欄もないが、長い胴貫が四方に突出し、変化と調和があることから「未完成の完成塔」とよばれている。「花の寺」として親しまれる前山寺には、桜、藤、牡丹、つつじなど季節ごとに美しく花々が咲き誇り、三重塔の簡素な美しさをさらに引き立てている。
国の登録有形文化財の庫裏座敷でいただく代々伝わる手づくりの「くるみおはぎ」は、香り高い鬼ぐるみで作ったタレでいただく前山寺の名物である。

「未完成の完成塔」とよばれる美しい三重塔。季節によって変化する風景とともに眺めたい
隅々まで手入れされた境内にしっくりと佇む本堂は、どこか女性的なやさしさを感じさせる。前山寺のご参拝は9時~16時、入山料200円

独股山 前山寺

住所
上田市前山300
電話
0268-38-2855
アクセス
JR上田駅からタクシーで20分、上信越道上田菅平ICから30分
住所
上田市前山300
電話
0268-38-2855
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重文常田館製糸場 - 近代化産業遺産が紡いできた時間

上田市の笠原工業は、明治11(1878)年に岡谷で製糸業をはじめた。明治33(1900)年に古くから蚕系業の本場・上田地域に請われて進出、生糸の製造工場「常田館製糸場」を創立し操業を開始した。広大な敷地には明治38(1905)年建設で国内唯一の木造5階建の繭蔵や大正15(1926)年建設の鉄筋5階建の繭倉庫、明治41(1908)年建設の木造瓦葺2階建の事務所兼経営者住宅をはじめ、最大約1500人以上の従業員の生活をささえた炊事場、味噌蔵などが現存し、その栄華はかつて上田唱歌の中で歌われたほどである。昭和7(1932)年に社名を株式会社笠原組と改め常田館製糸工場を上田工場としたが、太平洋戦争で操業を一時休止。幾多の困難を乗り越え、戦後は研究が進んでいた自動繰糸機を県内で先駆けて導入するなど発展を続けた。そして昭和39(1964)年、昭和天皇皇后両陛下、平成28(2016)年には今上上皇上皇后両陛下の行幸啓の光栄を浴している。平成24年には、笠原工業㈱構内にある製糸ゆかりの建物全15棟のうち繭倉庫など7棟が国の重要文化財に指定された。

国指定重要文化財の繭倉庫群。明治期建造の木造五階建繭倉庫は国内最大級の規模を持つ
大正時代築造の鉄筋コンクリート繭倉庫と渡り廊下。館内には展示品も見られる 

重文常田館製糸場

住所
上田市常田1-10-3 笠原工業
電話
0268-26-7005
住所
上田市常田1-10-3 笠原工業
電話
0268-26-7005
  • 繭倉庫のみフリー見学可。団体見学は要予約(~ 11月末まで)
  • 繭倉庫のみフリー見学可。団体見学は要予約(~ 11月末まで)

信州大学繊維学部講堂 - 蚕種の教育と研究に貢献、遊び心あふれた講堂

蚕種業の近代化や蚕種の品種改良に向けて、明治から昭和初期にかけて小県蚕業学校と上田蚕糸専門学校が開校した。なかでも上田蚕糸専門学校は、日本唯一の官立の養蚕の学校として大きな役割を果たした。戦後、信州大学繊維学部へと移行したが、堂々たる構えの講堂から、上田地方の人々が、いかに養蚕に関わる研究や教育に力を注いだかがうかがえる。
その講堂は下見板張りの木造建築で、県内屈指の建築物と謳われる。シンメトリーの外観や時計周りのデザインは教育施設らしい風貌でありながら、2階部分の三角張り出し窓が愛嬌ある表情も生み出す。特筆すべきは、各所に施された彫刻だ。演台や花台、ステージの柱、アーチの縁飾りなど、あらゆるところにカイコ蛾や繭、桑などの彫刻が施され、また、正面玄関の天井にはカイコ蛾と繭の透かし彫りが施されている。至るところに彫刻を隠した設計者の遊び心が建築物に意味を持たせ、深みを与えている。
上田地方の養蚕・蚕種業は衰退したが、上田地方には講堂のほかに、蚕種協同組合の建物や繭蔵、蚕種屋、桑の段々畑の石垣など、当時の面影が残る。ひとつの産業が築き上げた建物は、本来の役割を終えたのちにも町の景観を形成する礎となり、今に続いているのだろう。

縦横に配置した板張りの外壁が、建物に表情をつける。中央に配された時計や時計回りのデザインが、教育施設らしい雰囲気を醸す
演台には繭とカイコ蛾、演台横の花台には桑の彫刻が施されている

信州大学繊維学部講堂

住所
上田市常田3-15-1
電話
0268-21-5300(信州大学繊維学部)
住所
上田市常田3-15-1
電話
0268-21-5300(信州大学繊維学部)
  • ※見学は要事前連絡
  • ※見学は要事前連絡

旧上田市立図書館 - 県内稀少ドイツ系アール・ヌーヴォー意匠

上田城跡公園入口に立つ旧上田市立図書館。大正4(1915)年に、上田男子小学校の同窓会が住民から募った寄付金によって、旧上田男子小学校明治記念館を建てた。当初から図書館機能を持ち、大正12(1923)年に上田市に寄付、上田市立図書館として昭和45(1970)年まで多くの人たちに活用された。その後、市役所分室として使われていたこともあったが、昭和60(1985)年から彫刻家の石井鶴三美術館として小県上田教育会が平成20(2008)年3月末まで運営していた。その後は蚕都上田の地域づくり・人づくりの場として市民団体等に利用された。蚕都上田の経済力を背景に学習・芸術活動への取り組み、革新的で先取的な気風が創り上げた貴重な建物である。大正時代の近代洋風建築には、明治以来の派手で力強いものと、優しく愛らしい表現を主流にしているものに分かれており、同館は優しい後者。壁面の処理は平面で軒が浅く、屋根は勾配が途中で変化する形〝マンサード屋根〟。壁と屋根がひと続きのように見えるのがドイツ系のアール・ヌーヴォーの特徴でもあり、この影響をとどめる建物は県内では稀少。平成5(1993)年に上田市の有形文化財に指定されている。

旧上田市立図書館の場合はマンサード屋根の曲線や長楕円形の装飾などからドイツ系のアール・ヌーヴォーの影響を受けた建築と考えられている
天井や壁にデザインされている文様は優しい印象を与えいつまでも眺めていたいような上品な質感もいい

旧上田市立図書館

住所
上田市大手2-8-2
問い合わせ先
0268-23-6362(上田市教育委員会 生涯学習・文化財課)
住所
上田市大手2-8-2
問い合わせ先
0268-23-6362(上田市教育委員会 生涯学習・文化財課)

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※本記事の情報は掲載時の情報です