生産者とともに歩む 岩手最古のワイナリー
エーデルワイン

早池峰山がもたらす厳しくも豊かな「気候」、古い地層が残る北上山系の「土」、情熱をもって栽培に取り組む「生産者たち」、そして土地に適したブドウ品種。花巻市大迫町を歩くと、ここが岩手を代表するワイン産地であることを実感させられる。
この地でブドウ栽培が盛んになったのは、1947(昭和22)年とその翌年に襲来したカスリーン・アイオン台風により、主要産業だった葉タバコが大打撃を受けたことに端を発する。当時の県知事・国分謙吉氏が、大迫町の気候や地形がワインの名醸地であるフランスのボルドーと似ていることに着目し、「大迫町を日本のボルドーに」を合言葉に、葉タバコに代わる産業としてブドウ栽培を奨励したのだ。さらに1962(昭和37)年には町役場と農協が中心となり、県内初のワイナリーである「岩手ぶどう酒醸造合資会社」を設立。1974(昭和49)年、「岩手ぶどう酒醸造合資会社」は『株式会社エーデルワイン』となり、より本格的なワイン生産をスタートさせた。以来、大迫町は『エーデルワイン』とともに、ブドウとワインの産地としての地位を確立していった。

「いまエーデルワインの評価は間違いなく高いと思います」と語るのは小田嶋善明社長。「例えばコンクールに20アイテム出品すると、全て賞をいただけます。シルバーや奨励賞など、種類はいろいろありますが、自社のことながら改めて凄いと感じています」。世界最大級のワインコンクール「オーストリア・ウィーン国際ワインコンクール」では、日本のワイナリーで唯一、2018年から連続して1つ星を獲得中だ。
その理由として挙げられるのは「ブドウの質と技術力」だと小田嶋さんは言う。「よいワインはよいブドウから」という企業理念のもと、生産者のモチベーションを上げるためにエーデルワインは独自の取り組みを行っている。そのひとつが毎年3月頃に行われる「ぶどう生産者と共にワインを楽しむ会」の存在だ。
「栽培農家ごとにワインを造り、飲み比べをします。昨年は大迫町内の34園地34種類のワインを準備しました。同じ年に収穫された同じ品種のブドウで造ったワインでも、地区や畑、造り手が違えば、できるワインの質は異なります。ブドウを作った生産者本人がドレスアップして直接お客様に振る舞う。とても評判がよく、待ちわびている方がたくさんいるイベントです。」エーデルワインのホームページには生産者の名前や顔写真、栽培する品種が公開されていて、共にワインを造る姿勢が垣間見える。加えてエコファーマー(土づくりと化学肥料・農薬の低減を一体的に行う農業者の認定制度)の認定を受ける生産者も多い。ブドウの品質向上の取り組みはほかにも。すぐそばに立つ花巻市葡萄が丘農業研究所やJAなどと連携し、定期的に栽培指導会を実施。樹に残すブドウの房数を絞ることで、濃縮した味の果実に仕上げる収量制限を品種ごとに設定し、品質の向上に努めているのだ。
「圃場を整備して、昨年秋からキャンベルを植えています。2年かけて500本ずつ、計1000本植えるつもりです。オーストリア系のブドウもあれば、岩手に適したリースリング・リオンもツヴァイゲルトレーベもありますが、先々に備えようと、さまざまな品種にチャレンジしているところです」


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- 取材・文:川元 茂(編集部)
- 写真:池上勇人