ナチュラルなワインを堪能しよう
日本ワインの聖地・上田

長野県・上田地域には、「千曲川ワインバレー」と呼ばれる日本有数のワイン産地がある。ここが“広域ワイン特区”に指定されたのは、2015年のことだ。かつて桑畑だった遊休農地が、上田市をはじめとする8つの市町村で構成されるワインバレーとして生まれ変わったのである。北陸新幹線の上田駅からワイナリーに向かう道のりには、山々を背景にぶどう畑が広がる。上田駅周辺には最近人気を集めているナチュラルワインを豊富に揃えるビストロもあり、ワイン好きにはたまらないエリアだ。


「遠くに山を望むこの美しい景色と斜面を見たとき、“フランスだったらワインを造るだろうな”と思ったんです。土地を買って、家を建てて、野菜をつくって。まだ余裕があったから、500本のぶどうの苗を植えました。ワインを造って自分で飲めたら楽しいだろうと。その後、ワイナリーをやるなんて思わなかったし、寒すぎていいぶどうはできないよと周りに言われていました。もう32年も前のことですね」
エッセイスト・画家であり、「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」のオーナーでもある玉村豊男さんは言う。


のちにいろいろな縁が繋がって、2003年にワイナリーをオープン。ぶどうの出来は想像以上だった。醸造者の努力の甲斐もあり、ワインの評判は年々上がって、2008年にはサミットで各国首脳に振る舞われるまでになった。
同時に、周辺には玉村さんを頼ってワイン造りを始める人も集まるようになり、ワインを学びたい人のためのアカデミーもスタート。上田・佐久地域を一大ワイン産地へと成長させた。
「みんな、自分たちのライフスタイルとしてワイン造りを選んだ“ライフスタイラー”と呼ばれる人たち。こんなにライフスタイラーが集まるエリアは世界でも珍しいんですよ」。

「ヴィラデスト」のワイナリーに併設されるカフェレストランでは、ワインと地元で採れた食材を使った料理が食べられる。あちらこちらの席からあふれる人々の笑顔を見て、「この風景を見るのは本当に幸せ。ワインを造りを始めてから、ここを、ワインを囲んだ人たちが幸せな時間を過ごせる場所にしたいと思っていたから」と、玉村さんが顔をほころばせる。
営業期間中には事前予約でワイナリーの見学も可能。カフェではもちろん「ヴィラデスト」のワインを楽しむことができる。白ワインのシャルドネは豊かなミネラル感と酸のバランスが素晴らしく、赤ワインのメルローは熟成したふくよかな果実味がおいしい。
「ワインを通じて土地の個性を表現したい」という玉村さんと「ヴィラデスト」は、今も上田で日本ワインを牽引し続けている。
地元の日本ワインやナチュラルワインを楽しめるショップ&ビストロ

上田市や東御市の日本ワインはもちろんのこと、世界中のナチュラルワインだけを500種類以上も揃えるのがここ「Fika(フィーカ)」だ。90年以上前に建てられた自動車工場をリノベーションした雰囲気のある建物の中に、ワインショップとビストロがある。


店主の坂田智広さんは「10年ほど前に飲んだナチュラルワインの力強いおいしさに衝撃を受けました。ナチュラルワインは普通のワインよりも造り手の個性や性格が濃く反映されるように感じて、とても興味深いんです」と話す。
上田市にある「セイルザシップヴィンヤード」や「ヴェレゾンノート」、東御市にある「レヴァンヴィヴァン」、「ドメーヌ ナカジマ」など多数の地元のワイナリーのワインも扱っている。
「最初はカフェだったんですが、ワインショップをつくったのを機に、ワインより楽しんでいただくためビストロにしたんです」と坂田さん。
「Fika」のワインと料理を求めて、地元や遠方の客はもちろんのこと、上田周辺でナチュラルワインを造る人ワイナリーの人もちょくちょく食事に訪れるそう。


訪れたらまず食べたいのは、「自家製シャルキュトリの盛り合わせ」だ。シャルキュトリとは、肉を使ったハムやパテなどの加工品。これ一皿でワインが一本空きそうなボリューム! 軽めのサラダや、つまみになりそうなメニューが8品前後、魚や肉のメインは常時3種類ほど用意。どれもワインとの相性抜群。
「素材はなるべく地元のもの、オーガニックのものを揃えています。ワインがナチュラルだから、料理もそういう自然なものが合うと思うんです」と坂田さん。フレンチをベースにした本格的な料理は独学というから驚きだ。
飲みたいワインや料理を相談しながら、ゆっくりした夜を過ごしたい。


サイト掲載日
※本記事の情報は取材時の情報です
- 文:浅妻千映子:撮影:たかはしじゅんいち