新潟県・魚沼地域には、全国的に見ても珍しい、豚ホルモンを下ゆでせずに生で焼いて食べる文化がある。また伝統の酒造りや天然の冷蔵庫“雪室”を使う文化も残る。そんな魚沼ならではの、新幹線で行く美味紀行をご提案しよう。

新潟県の南東部、米処で知られる魚沼には、地元民に愛されるソウルフードがある。連休や週末ともなると、あちらこちらの家々で“生もつ焼き”が始まるのである。もつ焼きといえば下ゆでした豚ホルモンが一般的だが、ここ魚沼では鮮度のいい生のホルモンを網の上でそのままジュウジュウと香ばしく焼いて食べる。
「家の庭やガレージから煙が上がって、それはもういい匂いが漂ってくるんです。こっちで『バーベキューしよう』というのは、生ホルモンで焼肉しようということ。それくらい地元で愛されている味なんですよ」と、タクシーの運転手さんが胸を張る。

そもそも魚沼で生ホルモンがポピュラーになったのには理由がある。1954年に奥只見ダムの建設工事が始まると、作業員として多くの人たちがこの町に長逗留した。その際に各地から色々な食文化が持ち込まれ、その一つとして近くにあった食肉処理場で手に入る新鮮な生ホルモンを焼いて食べたことから、地元に広まり根づいたそうだ。
米、野菜、天然の山菜やきのこなど多くの地場食材に恵まれていた雪国の人々の胃袋を、食欲をそそる香ばしい匂いと濃厚な味のホルモンが鷲掴みにしたのは想像に難くない。養豚業が盛んで安価で新鮮な生ホルモンが手に入るため、経済面や栄養面でも大いに喜ばれたメニューだったことだろう。
魚沼のホルモン焼きは、そのプリプリとした弾力ある食感と甘味、深い味わいで、これまでホルモン焼きが苦手だった人をも虜にしている。地元を訪れた際には、ぜひ食べてほしいご当地グルメだ。

お腹が満たされたら、雪を冠する霊峰・八海山の麓に広がる「魚沼の里」へも足を延ばしたい。地元の銘酒蔵・八海醸造の広大な敷地内には、酒蔵や醸造所、ショップ、飲食店、資料館といった施設が点在し、見処たっぷり。歩いて回るだけでも楽しい。

圧巻は何といっても豪雪を利用した天然の冷蔵庫“雪室”である。
「この地域の人々は冬に降り積もった雪を貯蔵して、一年の間、冷蔵庫代わりに利用していました。ここではそうした雪国の知恵を生かし、冷気を循環させる“氷室型”と呼ばれる雪室で約36万ℓの日本酒を貯蔵・熟成しています」（八海醸造 関辰也さん）。

四季折々に美しい景色が楽しめる魚沼には、知られざる独特の食文化と今なお昔ながらの雪国の知恵を生かした暮らし、訪れたい魅力的な場所が数多くある。これだから旅はやめられない。