秋田県立美術館に、藤田嗣治の大壁画《秋田の行事》を観に行く
秋田県立美術館

秋田県に、なぜ世界的な芸術家・藤田嗣治のコレクションがあるのか。『秋田県立美術館』を訪れる前に、誰もがまずその前段を知りたいと思うはずだ。美術館の成り立ちをひも解くと、秋田の資産家・平野政吉と、藤田嗣治の深い関わりが見えてくる。平野は秋田市で米穀商を営むかたわら、浮世絵や骨董、絵画に熱中し、生涯をかけて美術品を集めていた。そのコレクションの中心にあったのが藤田の作品だ。
1934年、平野は藤田と出会い、親交を深めていく。藤田は妻・マドレーヌが急逝すると、その鎮魂のために秋田に美術館を作る構想を抱き、平野もこれに賛同。藤田はこの美術館に展示する“秋田の全貌”をテーマにした壁画を制作することを決意。平野から提供された米蔵をアトリエにして制作をはじめ、1937年に完成したが、戦争の影響で長い間公開されることはなかった。
それから30年の時を経た1967(昭和42)年、ふたりが夢見た美術館設立が現実のものとなる。平野は自身のコレクションを公開するために「平野政吉美術館」を設立し、秋田県との連携とともに、『秋田県立美術館』が開館することとなった。これが、藤田の作品が中心となる展示が実現した背景だ。
その後、2013年に新たに再開発エリアに移転し、世界的建築家・安藤忠雄によるモダンな設計の美術館が完成。コンクリート打ち放しのシンプルなデザインは、美術館としてだけでなく、建物自体が一つの芸術作品と言える。その美しさも、訪れる人を引きつける大きな魅力だ。なんと言っても目を引くのが藤田嗣治の壁画《秋田の行事》。幅20メートルにも及ぶこの大壁画は、秋田の祭りや日常の風景を色鮮やかに描き、見る者を圧倒する。無機質な建物の中に、鮮やかに輝く壁画を見たとき、まさにこの美術館は藤田の作品のために設計されたのだと感じることだろう。



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