常盤三陸の海幸を命のソースに、郡山の野菜を味わう
なか田

世界は常に中心から同心円状に広がり辺境へと至る。そして、顕在する食文化の中心は大都市である。しかし、自分という世界の軸をどこに置くかで、その景色の見え方は大きく変わるだろう。
煉瓦壁に蔵戸のエントランスを入れば、会津の民家を移築した造作の中に鉤型のカウンターが一本。その上には、会津桐の折敷に大堀相馬焼「陶徳窯」のショープレートと二重焼のカップ、須賀川・久保木畳店のコースター。食材や調理法だけではない。食を取り巻く道具や舞台だてもまた、中田智之さんが大切に思う食文化の一環なのだ。
ミシュラン掲載のフランス料理店でスーシェフを務めたのち、奥田政行さんの片腕となり郡山にイタリア料理店を立ち上げ料理長として活躍した中田さんだが、現在の料理はその経歴を13、4皿のムニュ・デギュスタシオンだ。
陶徳窯の10代目、陶 正徳さんが「二度と焼かない」と言うほど苦労したというショープレートに、あぶくま洞の鍾乳石。その上に、松川浦の青海苔とキタアカリで作ったチュイル。その中の会津の香り枝豆は、一粒に10粒ほどを凝縮したような濃厚な味わい。相馬産ボタン海老のとろりとした甘さが脇役に回る強さだ。ガラス釉が鮮やかな緑の皿には、今が旬の相馬の香箱ガニ。マッシュルームのデュクセル、カニの卵、刻んだカリフローレ、セロリとレモンを効かせたカニの身、菊花が花火のように口中でスパークする。
刻んだヒイカとともにネーロ・ディ・セピアに仕上げたフレーグラは、炙ったヒイカの芳しさとフェンネルの風味も魅力。フェンネル自体の鮮度がよくなければ、こうまで香らない。鈴木農場、おそるべし。霜が降りて甘さを増した白菜をブレゼにし、甘鯛のうろこ焼きと白ワインに漬けたイクラをのせて。柚子香るさくさくの甘鯛、香り高いぷちぷちのイクラ、とろとろの白菜。最後はすべてが白菜のためのパーツと化す、実に中田さんらしいひと皿だ。
「鈴木農場さんをはじめとする福島の野菜も、常磐三陸の魚も、ほんとうにおいしいのでクリームやバターはほとんど使わなくなりました。塩分濃度もだいぶ落として、食材の香りがぐっと立つ塩加減になってきた。今はもう、魚介をソースに野菜を食べる、といってもいいのかもしれません」
フレンチの命であるソースを魚介の旨みで構築、皿の主役を野菜で構成するという。
中田さんにとって、自分の立つ郡山が世界の中心だ。もはや辺境などとは呼べない郡山の豊かさが、革新の料理を生み出したのだ。


なか田
- 住所
- 福島県郡山市清水台1-6-23
- 電話
- 090-7563-4949 完全予約制
※問合せ・予約の電話は火~土曜の14:00~17:00に受付(2カ月先まで予約可能)
- 営業時間
- 18:00~19:30最終入店
- 定休日
- 日・月曜、祝日※12/29~1/7は休み
- 駐車場
- なし
- 席数
- 6席
- 席予約のみ
- 不可
- 目安
- 2万円
- カード
- 可
- 喫煙
- 全席禁煙
- メニュー
- おまかせコース 1万6500円
ペアリング 1万1000円
- 住所
- 福島県郡山市清水台1-6-23
- 電話
- 090-7563-4949 完全予約制
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- 営業時間
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