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角館

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青柳家の歴史と想いを込めて、 2011 年ニューオープン

角館山荘 侘桜

  • 仙北市
  • 宿泊
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  • 温泉
  • 源泉掛け流し
  • 露天風呂
記事制作:
Kappo
角館山荘 侘桜

夏の終わりに、秋田・角館で素晴らしき宿に出会った。『角館山荘 侘桜』。8月にオープンしたばかりの隠れ宿だ。 

武家屋敷通りから北へ、車で10分ほどの地に『侘桜』は立つ。途中のどかな田園地帯を通り抜けながら、小さな看板を頼りに進む。桧木内川を右手に、車はやがて山あいに達する。すると茅葺き屋根の大きな古民家が目に飛び込んでくる。

聞けばこの母屋、雫石にあった築200年の古民家を移築したものだという。案内されるまま入ると、吹き抜けの圧倒的空間の中に、土間や囲炉裏、神棚、竈神など昔ながらの意匠が垣間見える。

『侘桜』には多層な歴史が見え隠れする。それは400年前から現代まで、武家屋敷通りに佇む『青柳家』の歴史と密接につながっているからだ。オーナーである高橋佐知氏は、文化財を保護するキュレーターとして、歴史を正しく伝える歴史家として、そして経営者として、『青柳家』を守ってきた。

「もともとこの地は戸沢氏の領地でした。青柳家はかつて戸沢氏に世話になった歴史があり、そのご恩を返す意味で、近くに門屋城があるこの地に、青柳家ゆかりの宿を建てたんです」 

室内もデッキテラスも半露天風呂も秋田杉がふんだんに使われ、とにかく見事。木目や節が美しい。天然木とはかくも多様で、美しいのかと嘆息する。一方で設えはモダンである。

周りは森に囲まれ、人工的建造物はほとんど見えない。「建物全体が敷地の起伏に沿いながら、植物などの自然と共生していたかつての生活を彷彿とさせるかたちを求めて」設計されたという。 

空も近い。星が180度の視点で眺められる星見台があり、夕陽と星空を眺めるための、静謐な時間がこの宿には似合う。 

客室は全部で10室。すべてに源泉掛け流しの半露天風呂がついている。ダイニング付きの和洋室、和洋室、和室の3タイプで、露天風呂の材質や形状が部屋ごとに異なっているのも特徴だ。 

この日、宿泊したのはダイニング付き客室である「曙山」。ドアやベッドサイドに樺細工が貼られ、床の間には秋田蘭画、ふんだんに秋田杉が使われた客室はまさに秋田の伝統を、モダンにアレンジしたものだ。 

「曙山」寝室。寝具はシモンズ製。床の間には佐竹曙山筆の「松に唐鳥図」(模写)がかかる。この客室タイプは部屋食になる。

秋田蘭画、和の匠… 幾層もの顔を持つ高級宿 

部屋の名前にも使われている佐竹曙山は江戸後期の秋田藩主であり、日本最初の西洋画論を記した異色の画人大名。床の間にも曙山筆の「松に唐鳥図」がかかっている。秋田蘭画とは、写実主義、遠近法、陰影法などを用いて、浮世絵に大きな影響を与えたと言われる日本最初の洋風画派で、曙山のほか、小田野直武など秋田藩士が中心となった。言うなれば日本の伝統絵画の中で最初に開いたモダニズムだった。その精神はこの『侘桜』にも息づく。決して華美ではないが、質実剛健な美意識の中に宿るモダン。『侘桜』はまさしく秋田蘭画を源流とする、西洋と伝統を高度に融合させた宿なのだ。 

食事は当初『分とく山』の野崎洋光氏が総料理長として立ち上げとプロデュースを行った。野崎さんはミシュラン2星の名店など、5店舗を総料理長として統括しながら、数多くの著作を通して、日本食の素晴らしさを伝えている人物。現在はその思いを継承した侘桜の料理長が多くのレパートリーの中から秋田の食材を用い、月替わりで献立を組み立てる。
供される料理は、素材の力を十全に活かし、主張しつつも強すぎない加減の妙を体現した日本料理。秋田の地酒やシャンパーニュなどの銘酒たちと美しい器による、宿泊者だけが味わえる食の饗宴を、心の底から愉しみたい。
 

「ふる山の 岩根にふせる わびざくら」

 『侘桜』の名前の由来は『新撰六帖題和歌』の中に出てくる和歌から取ったという。「周りがどれだけ変化しても、一本の桜が咲いていればそれでいい」という静かな矜持を込めて名づけられた。門の脇にはこの宿の象徴たる一本桜が植えられている。「不器用ながらも心を込めたサービスを行っていますが、至らない点があればご指摘ください。皆さまのご意見が我々の財産です」と高橋氏。言葉の芯には、高みを目指すものの謙虚さがある。 

歴史、食、自然、湯、文化。めくればめくるほど多様な顔が現れる『侘桜』。2011年夏、角館の地に東北を代表する宿が生まれたと言えよう。 

雫石から移築された古民家を母屋として使う。葺き替えられた萱葺き屋根が見事。戸沢氏はものすごい豪族だったが、名前は知られていない。オーナーの高橋さんは埋もれている歴史の掘り起こしのためこの地に宿を建てた。車で1~2分のところにある戸沢氏の門屋城跡は、角館よりもさらに400年古く、800年の歴史を持つ。 囲炉裏ラウンジ。石井建築事務所の橋本之宏氏は設計のポイントを「ただ古いものを復元するのではなく、角館の歴史文化の空気感の中に、快適で安全な安らぎと眠り、良質で豊富な温泉、素晴らしい料理の提供などを、現代の生活感性からの要求にも応えられるクオリティを持たせて、それぞれの空間にまとめ上げた」と語る。

この日の献立
舌濡し
冷製じゃがいも仕立て 巻海老 生雲丹 醤油小角ゼリー

侘肴(写真)
松の実海老味噌糝薯 鮒の甘露煮 海月と胡瓜の胡麻酢和へ 鶏肝葱寄せ イカの肝和へ 南瓜松風 古代米飯蒸し 鮎の真子うるか 茶筅茄子蓼味噌田楽

お造り
三種盛

中皿
鮎と岩魚の一夜干し 鳶舞茸の醤油煮 山桃ワイン漬け

温鉢
冬瓜煮物鉢 鮑 生帆立貝 地野菜 干し海老 干し貝柱

強肴
錦牛蓴菜鍋 荏胡麻きりたんぽ 比内地鶏の卵

御食事
萩御飯 茶籠蒸し 止め椀 香の物

水菓子
秋田甘えんぼメロン 青大豆きなこプリン 

角館山荘 侘桜

住所
秋田県仙北市西木町門屋字笹山2-8
電話
0187-47-3511
宿泊料金
和洋室・和室…1泊2食付き5万2000円~(1名料金、4名1室の場合)
ダイニング付き和洋室…1泊2食付き6万 6000円~(1名料金、4名1室の場合)
※税・サ込、入湯税別
客室数
全10室
カード
IN
15:00
OUT
11:00 
施設
囲炉裏ラウンジ、ギフトショップ、星見台、エステトリートメント
アクセス
仙台より車で約3時間(秋田自動 車道大曲IC~国道105号経由)、 仙台よりJR秋田新幹線で約1時間30分、角館駅より車で約15分 (送迎あり・要予約)
住所
秋田県仙北市西木町門屋字笹山2-8
電話
0187-47-3511
宿泊料金
和洋室・和室…1泊2食付き5万2000円~(1名料金、4名1室の場合)
ダイニング付き和洋室…1泊2食付き6万 6000円~(1名料金、4名1室の場合)
※税・サ込、入湯税別
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※本記事の情報は掲載時の情報です

  • 取材・文:川元茂(本誌)
  • 写真:佐藤功弥(cobalt photography)