地産地消は畑に来てこそ成り立つ
ともちゃんの野菜畑 和田博子さん × PORTTAVOLA 瀬戸正彦さん 周朔さん

閑静な住宅が立ち並ぶ泉区紫山にあるイタリアンレストラン『PORTTAVOLA』のオーナーシェフ瀬戸正彦さんは、食材王国みやぎ「伝え人」としての活動を続けている。根底にあるのは「宮城のおいしいものを、宮城で食べてもらいたい」という想い。それは瀬戸さん自身の料理との向き合い方も変えることになった。「以前は素材に味を加えながら皿を完成させていましたが、今は素材のおいしさが明確に伝わるように、考え方も味付けもシンプルであることに重きを置いています」。そして、それを可能にしてくれる生産者とのつながりをとても大切にしている。今回、息子でスーシェフの周朔さんと『ともちゃんの野菜畑』へ行くというので、同行することにした。


加美郡色麻町の畑に行くと、2代目の和田博子さんが早朝から汗を流していた。約80aの広さで年間80~90種ほどの野菜を一人で栽培し、夏場は週2回、それ以外は週1回の配達も自分でこなしている。「草刈りや片付けは父が手伝ってくれる」そうだが、毎日かなりの重労働だ。
畑は、栽培期間は化学農薬不使用栽培を基本とし、一般的な化成肥料も使わない。鶏160羽を放し飼いにしており、出荷できない野菜のくずなどを餌として与え、その鶏糞は野菜の肥料にする循環型農業を行っている。また加美町の酪農家から牛糞の完熟たい肥を購入し、土づくりの際に活用している。
ここは博子さんの母・智子さんがはじめた畑。東京で会社勤めをしていた博子さんに継ぐつもりはなかったという。しかし体が「戻ったほうがいいよ」と告げるように定期的に風邪をひくようになり、体調がすぐれない日も増えていった。月に1~2回、智子さんから届く無農薬の野菜で自炊もしたが、本格的な食事療法を勧められたという。「実践したら体調は回復してアレルギーの症状も出なくなったんです。食事は大事だなと実感し、戻ることにしました」
除草剤も使わないので雑草も元気に伸びる。「刈るか、抜くか、気にはするけど手が回らないからあきらめます。保湿になるとか、カボチャの日よけになるとか。何事も考え方次第です(笑)」。博子さんの前向きな姿勢に触れ、こちらまで前向きな心持ちになる。
「畑に来て、いい素材を見ながらレシピを考えるのがいちばんいい」と瀬戸さん。「机上で考えた食材がすべて集まるとは限らないし、新しいアイデアが浮かんだりする。ジェノベーゼソースに使う松の実は外国産だけど、この畑で秋に採れる落花生を代わりに使えば地産地消が完成するし、そのストーリーをお客さまに伝えることもできます」

この日収穫した中玉トマトとブルーベリー、シナモンバジルで周朔さんがデザートを作り、店のメニューに加える予定だ。
美味しい食材がある地方にこそ人を呼びたいと瀬戸さんは考えている。「それが地方のあるべき姿。情報として発信したり提案して行くことも、我々料理人の役割だと思っています」
ともちゃんの野菜畑
- 観光農園ではないため訪問・見学は不可
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※本記事の情報は掲載時の情報です
- 取材・文:川野達子
- 写真:池上勇人