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未来に残すべき 水産業の在り方を「ホヤ」に学ぶ

あつみ屋 渥美貴幸さん × こうめ 佐々木紗矢香さん 宗治さん

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記事制作:
Kappo
あつみ屋 渥美貴幸さん × こうめ 佐々木紗矢香さん 宗治さん

宮城を代表する夏の味覚「ホヤ」が今年は大ピンチだという。例年であれば5月頃から最盛期を迎えるのに、高水温のため成長せず出荷できない状態が続いている。

「去年は一品目から〆の料理まで、すべてにホヤを使う『ホヤ満喫コース』を出していたんです。でも今年は手に入らない。常連のお客さまから『ごはんだけでもホヤにして』と言われているんですけれど…」と、立町で日本料理のコース店『こうめ』を営む佐々木紗矢香さんが、電話の向こうで嘆いている。

そもそも、独特の匂いや食感から苦手意識を持つ人も多い「ホヤ」を主役にしたコース料理は成り立つのだろうか。「谷川浜の渥美さんから仕入れるようになってから、ホヤの料理を目当てに来てくださるお客さまが増えたんです。『ホヤ満喫コース』も大好評でした」。客に苦手なものを聞くと、必ずといっていいほど名が挙がる食材。しかし一度食べれば好物になる人が多いのも「ホヤ」だという。

夏本番を迎えてもなお不漁が続いている。「手に入らないのは仕方ありません。その理由をお客さまに伝えることも私たち料理人の仕事です」という紗矢香さんとともに、谷川浜を訪れることにした。

渥美さん、こと渥美貴幸さんが代表を務める「あつみ屋」の加工場があるのは、石巻市谷川浜漁港から車で1分ほどの場所。鮫ノ浦湾でホヤとカキの養殖を行っており、早朝から漁に出てホヤを水揚げし、午前のうちに加工を終える毎日を送っているはずの時期である。「今年は4年ものの実入りがよくない」と話す渥美さんは残念そうだ。

東日本大震災前は全国生産量の約8割が宮城県産だった。中でも谷川浜は天然ホヤの種を採取できる場所として聖地とも呼ばれており、この浜で生まれ育った渥美さんにとって水産業は身近な職業だった。家業ではなかったため必要な道具は何ひとつ揃わなかったが、アルバイトなどでお金を貯めて中古の漁船を購入し、養殖業をはじめたのは25歳の時。それから3年かけて育てたホヤを初出荷し韓国への輸出も果たした翌年、津波の被害に遭った。

「震災直後は仙台に住んでいました。漁港の再開は無理だろうと思いましたが、悔しくて戻ってきました。そして漁港をなんとか直して再開し、次の世代に水産業を繋ぐことを目標に掲げて前に進むと決意しました」

2014年には出荷できるまでに成長した。しかし生産量の7割を消費していた韓国が原発事故を理由に水産物の輸入を禁止していたため廃棄せざるを得なかった。

「東電がその分を補償するので、廃棄する数量を書くよう言われましたが、ゼロって書いて提出しました。カッコつけただけですけど、単純に嫌だったんです。水産業を次世代につなぐ目標を掲げているのに、いつかは終わる補償金に頼ったら未来はない。だからうんとは言えなかった。おかげで大変でしたけれど」。その後も高水温やコロナの流行など、水産業を取り巻く現状は厳しい状況が続いているが、そんな中でも渥美さんのホヤは品質と味のよさで全国の料理人から高い評価を得ている。

ホヤは甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の五味を備えた万能食材だという。「生食するものだと思われがちですが、カレーやグラタンにも合うし、大葉で巻いて天ぷらにしてもおいしい。何より、宮城にはホヤを食べる食文化があることを、もっと誇るべきだと思います」と熱く語る渥美さんの言葉にうなずく紗矢香さん。ようやく手にしたホヤを、炊き込みご飯と茶碗蒸しでふるまった。

水揚げ後すぐに殻を外して処理すれば、繊細で良質な旨みを堪能できる。
昆布とカツオの一番だしに蒸したホヤのだしを加えた茶碗蒸しはとてもやさしい味わい。店では夏に冷製で出すことが多い。
炊き込みご飯は蒸したホヤの食感と旨み、程よい塩味がかむほどに口に広がる。米は角田産ササニシキ。
(左から)「こうめ」佐々木紗矢香さん、「あつみ屋」渥美貴幸さん、「こうめ」佐々木宗治さん。
紗矢香さんは「味わい深さを表現するベテラン俳優みたい」とホヤを評した。
炊き込みご飯のおいしさに、渥美さんの顔がほころぶ。

※この記事は2024年に取材したものです

こうめ

住所
仙台市青葉区立町26-17小野ビル203
電話
022-738-8164
営業時間
17:00~(完全予約制)
定休日
不定休
住所
仙台市青葉区立町26-17小野ビル203
電話
022-738-8164
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あつみ屋

サイト掲載日 

雑誌掲載日   
※本記事の情報は掲載時の情報です

  • 取材・文:川野達子
  • 写真:池上勇人