福島の「つくるひとびと」とともに
Aoyagi

穏やかな古びをまとう佇まいは、昼ならば見過ごしてしまいそうなささやかさ。丸いランプに灯がともり、ロートアイアンの扉の奥が明るくなったら、『Aoyagi』のはじまりだ。
『Aoyagi』の開店自体は2014年の1月。シェフとして働くはずだった新店の立ち上げが東日本大震災によってなくなり、24歳だった青柳拓也さんの未来は宙に浮いてしまった。しかし青柳さんはこれを好機と捉え、以前から行きたかったイタリアに職を求めた。目に留まったのはプーリアのレストラン。応募後すぐに連絡があり、5月にはもう現地に飛んだという。プーリアでの暮らし、「pasha」での仕事は、青柳さんにカンパニリズモの哲学を植え付けた。オープン当初からその種はゆっくりと芽吹き、福島の生産者や作家との出会いと交流が枝幹を育て、5年ほど前からは花葉である料理のひと皿ひと皿に顕著となった。


会津産馬肉のロースを使ったタルタルは、シンプルな塩・胡椒とオリーブオイルにリンゴ果汁を煮詰めたヴィンコットがアクセント。オゼイユやロメインレタスのマイクロリーフとリコッタ・サラータをいきいきと散らして、プーリア産のブラックオリーブの粉末で階層の天と地を繋いだ。3つのファクターを正三角形で構成した、まっすぐな仕立てのひと皿だ。


近年、三陸の凄腕の漁師たちに注目が集まっているが、中でも多くの料理人に信頼されているのが石巻の大森 圭さんと相馬の菊地基文さん。この日『Aoyagi』では、ふたりの漁果を連続で楽しむことが叶った。大森さんのタコは、トマトでじっくり柔らかく煮込んだアフォガードに。菊地さんのサワラは水揚げから1週間熟成させたものをロースト、喜多方の江川正道さんが育てたサフランを使ったブール・ブラン仕立てに。どちらも春の香りの地元野菜や山菜が合わせてあり、味わうごとに表情を変える。


プーリアを代表するパスタがオレキエッテ。しかもブロッコリーのソースといえば大定番。もちもちの噛みごたえにくたくたの甘いブロッコリー、相馬の白魚を合わせた、青柳さんにとって料理の原点と故郷の原点を掛け合わせたようなひと皿だ。
「肉質が柔らかく、肉の香りがきれい」と青柳さんが評する「あだたら酵母和牛」はランプをローストで。融点の低い脂がさらさらと赤身に沁み込み、繊維がふっくらと膨らむ。噛めば脂の旨みと赤身の旨みが同時にあふれ、やがて赤身の味わいに集約されていく。


自由度の高いワインアテンドをしてくれる青柳 希さんが、コースの最後のタイミングで厨房へと入る。パティシエである彼女がつくるドルチェがまたいいのだ。石巻「kitaha」の和紅茶を使ったクレマ・カタラーナに福島「ささき牛乳」のリコッタチーズ、「ゆうやけベリー」とビーツ。まるで雨上がりの夕焼けのような、ドラマチックな幕切れだ。
食材はほとんどが福島を基点とする東北産。だからこそ青柳さんは、食材の組み合わせや調理法にイタリア料理の核心を込める。ゆえに、イタリアと福島の美しい融合が、味わいに浮かび上がるのだ。



サイト掲載日
雑誌掲載日
※本記事の情報は掲載時の情報です
- 取材・文:ナルトプロダクツ
- 写真:池上勇人







