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埼玉の酒の未来を担う造り手たち

熊谷唯一の酒蔵『権田酒造』が醸す「直実」

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記事制作:
散歩の達人
熊谷唯一の酒蔵『権田酒造』が醸す「直実」

埼玉の熊谷で唯一残る酒蔵の『権田酒造』は、日本酒界でじわじわ人気を集めている注目株。飾らない実直な蔵元兄弟が丁寧に醸す酒は、気持ちがほころぶ素直なおいしさ。そんな酒らしい温かみのある酒蔵を訪ねた。

取材・文=山内聖子 呑む文筆家・唎酒師。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』『夜ふけの酒評』『日本酒呑んで旅ゆけば』(共にイーストプレス)、『酒どころを旅する』(イカロス出版)、『BARレモン・ハート意外に知らない酒の基本知識』(双葉社)など。
7代目杜氏の権田直仁さん(後列中央)と拓弥さん(後列左)を囲む、『権田酒造』で働くスタッフのみなさん。終始、笑い声が絶えないほど仲がいい。

日本酒仲間の勧めで「直実(なおざね)」をはじめて手に取ったのは、たった数カ月前のこと。聞けば地元消費が中心で、東京などの都心部にはほとんど進出していないという。日本酒の消費が右肩下がりの昨今は、勇んで都会の消費地へ売り込む酒蔵が多いなか、今どき珍しい地域密着型の銘柄である。
そんないかにも地酒といった「直実」と縁がありたまたま出会ったわけだが、飲んだ瞬間に思わず、ほっこりいい酒だなぁと心が動いた。主張は乏しく、これといった特徴が目立つ酒質ではない。売れ筋の銘柄に肩を並べるような、今風のポップな酒質とは真逆の懐かしさ。はっきり言って地味である。でも、自然に心を寄せてしまいたくなるような、のびのびした素直な味わいに気持ちがほころんだ。一方で、酒がおおらかすぎず、例えば雑味のない余韻など、どことなく丁寧さが透けて見える。

古式ゆかしい雰囲気の直売所に並んだ酒瓶の数々。蔵では全ラインアップを購入できる。冬季限定の酒粕も人気で、販売するとすぐに売り切れることも。
酒屋としてだけではなく、近所の人たちが集う憩いの場にもなっている。
出迎えてくれた『権田酒造』の招き猫・たまちゃん。
「直実」を代表する3本は、右から熊谷直実の幼少時の名前を冠した冬季限定のフレッシュな新酒「弓矢丸」1980円、ゆるゆる飲めるやさしい甘みが特徴の特別純米1815円、控えめな吟醸香の純米大吟醸3300円など(すべて720ml)。冷やしてもいいが「うちの酒はどれも温めておいしく飲める」と7代目。ぜひ燗酒でもいただきたい。

おそらく懸命に酒造りに向き合うひたむきな意欲を酒から勝手に想像したが、予感は的中。「直実」を造る7代目で杜氏の権田直仁さんはまだ34歳の若手だが、酒質通りの飾らないまじめな人だった。
「自分の蔵は満足がいく設備がまだありませんが、今できる範囲でベストを尽くしたい。お試し酒のような実験ではなく、ちゃんとうまい酒を世に出すために頑張らないと。お客さんを裏切らない酒造りをすると決めています。ちょっとまじめすぎるかもしれませんが『直実』を反対にしたら『実直』なので、自分はこれでいいかなって(笑)」と、メガネの奥に潜むまんまるな目をくしゃっと細めて笑う。
そんな彼が造る銘柄「直実」は、平安期から鎌倉時代に熊谷を本拠地に活躍した豪将・熊谷直実に由来するが、命名の端緒は5代目まで遡(さかのぼ)る。『権田酒造』は嘉永3年(1850)に創業し、「清太喜」という銘柄で酒造業を営んでいたが、約65年前に熊谷市民の一般公募で地元の豪将にちなんだ新ブランド「直実」を発足。
そういうわけで、新ブランド銘柄の立ち上げは実に何気ないが、そのバトンは途絶えることなく5代目から6代目へ継承。そして、東京農業大学を卒業し、2017年に蔵に戻った7代目の直仁さんへと受け継がれる。銘柄だけではなく、酒質も5代目からの味わいを踏襲しているという。
「5代目の祖父は昔ながらの甘い酒が好きで、父も甘口を引き継ぎました。私も代々続く味を踏襲したい。なので、今流行りの香りが強く甘酸っぱい酒は目指していないんです」
とはいえ、ただ同じ味を造るのではなく、彼は淡々とより”直実らしい”酒質を目指す。
「優しくてまろやかな甘みはあるけど、輪郭がはっきりした辛口の“潔い酒”を造りたい。まさに直実みたいな武将のような酒。飲めばまず甘みやうまみなどの味わいがずしんとくるけど、後味はスパッと切れる飲み飽きしない酒です。私も飲むのが大好きなので、まず自分が飲み続けられるような酒を造りたいですね」
それを実現するために、酒造りにかかわる仕事を地道に改善中。特に力を入れているのが衛生面だ。
「とにかく蔵をきれいに清掃し、麹(こうじ)造りや米を運ぶときには食品衛生用の手袋をしたり、麹室に入るときには白衣を着るなど、余計な雑菌が酒に入らないよう徹底することを心掛けています」

直仁さんは、いつもは笑顔が似合う柔和な方だが、酒造りの話になるとキリッと真剣な表情に。
広々とした麹室。常に約33℃の温度を保ち、蒸米に菌糸を生やす。
熊谷産の酒米「さけ武蔵」で造った麹米は、特別純米の酒母に使われるもの。かむとほのかに甘みが口に広がる。

日頃からの努力と人柄がそのまま酒の味になる

杜氏に就任した21年以降は、さらに酒造りに没頭し、一つ一つの工程を試行錯誤する日々だという。
「前の杜氏さん時代は行わなかった、もろみの緻密な温度管理や、発酵中に加える追い水のタイミングなど、さまざまな工程をデータ化することで、細かく丁寧にできるようになりました。自分の都合よりも“お酒ファースト”な酒造りでしょうか(笑)。もう酒造りは暮らしそのものですね。四六時中、酒造りのことばかり考えています」
“お酒ファースト”とは、ずいぶんなのめり込みようで、一人でストイックに孤軍奮闘する姿を想像するが、蔵のスタッフに囲まれている彼は笑顔が絶えず、いつも穏やかな表情をしている。19年に蔵に戻ってきた弟の拓弥さんとの連携プレーも良好で、麹造りの終盤の麹米を運び出す出で麹(こうじ)も、息がぴったりだ。今回訪ねたのは忙しい酒造りの最盛期だが、酒蔵にピリピリムードはない。蔵の敷地内をのんびりさまよう数匹の野良猫が住み着くのも分かるほど、ゆるやかな空気で満たされている。
「みんな仲はいいですね。蔵で働くパートさんは同級生のお母さんだったり、自分を小さい頃から知っている人がほとんどなので、頭が上がらないというか、穏便に仲良くやるしかないというのもありますが(笑)。酒造りは身内と家族でやっているので、たまにけんかしてもみんなで協力し合える温かみのある蔵でありたい。蔵の雰囲気も含めて酒の味を知ってほしいです」

酒のいい匂いが漂う蔵内にずらりと並ぶ発酵中のもろみタンク。8℃くらいの低温でじっくり発酵する。中には来週搾るという「弓矢丸」も。
もろみを搾る槽(ふね)。『権田酒造』では、すべての酒を槽で搾ると言い「おかげで毎回手間がかかってすごく大変です」と、7代目は笑う。
もろみに櫂(かい)を入れ、よく攪拌(かくはん)して発酵を促す。
直売所をうろつくもう1匹の白猫しろちゃん。

7代目の母・幸子さんが酒粕を使って作る甘酒と、キュウリやショウガ、ゴボウなどを漬けた酒粕漬け。「直実」によく合う!

権田酒造

住所
埼玉県熊谷市三ヶ尻1491
電話
048-532-3611
営業時間
9:00~18:30
定休日
日・祝(臨時休あり)
駐車場
あり
アクセス
熊谷駅南口からバス(さくら号)三尻郵便局駅で下車した後、徒歩5分。

※取材時の情報です

住所
埼玉県熊谷市三ヶ尻1491
電話
048-532-3611
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定休日
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あり
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熊谷駅南口からバス(さくら号)三尻郵便局駅で下車した後、徒歩5分。

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サイト掲載日 

雑誌掲載日
※本記事の情報は掲載時の情報です

  • 取材・文山内聖子
  • 写真井原淳一
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