おいしく愉しく味わいながら酒粕を身近な食材として提案
下タ町醸し室 HIKOBÉ

江戸時代から300年以上続く老舗蔵元『福禄寿酒造』が「酒と文化と風土を醸す」をコンセプトに、日本酒を入り口に人が集い、活動する拠点として2018年5月にオープンした。自社の日本酒や酒粕を販売するほか、カフェスペースでは酒粕を使ったお菓子やドリンクを提供。日本酒の飲み比べもできる。
「長く酒蔵で担ってきた製造と小売りを分けたい、というのがプロジェクトをスタートさせたそもそものきっかけです」とスタッフの渡邉明子さん。以前より酒蔵見学に訪れる観光客は多かったが、蔵だけで完結していた。「観光客の関心を、この場所から五城目町全体に向けさせたいと考えるようになりました。地元の方とも交流を深めながら、歴史や風土を知っていただく場所になることを目指しています」


また酒粕の魅力をもっと広く伝えたいとの想いから、オープン翌年には酒粕ランチもメニューに加わった。10食限定、レシピ付き。しかしランチにかけるエネルギーが大きくなりすぎ、一旦休止し見直すことにした。「そんなタイミングでふらっと店に来たのが、いまランチをお願いしている石丸シェフです」。日本各地の酒蔵を巡る旅を続けていた広島出身の石丸敬将さんが、ちょうど五城目町に移住した頃だったそう。それから週に一度、火曜限定の酒粕ランチが始まった。「シェフ考案のメニューは本格的で、洋食・中華・和食とジャンルも多彩。食べに来てくれる人が増えましたし、ランチをきっかけに地元の方も立ち寄って、”おちゃっこ ”してくれるようになりました」と渡邉さんは喜ぶ。
改めてランチを始めるタイミングで立ち上げたのが、酒粕にまつわるプロジェクト「福々折々」だ。「ランチは『福折ランチ』としてSNSで紹介したり、ランチョンマット兼用の『福折しんぶん』を発行したりしながら、私たちの取り組みや活動を積極的に発信しています」


日本酒の副産物である酒粕を、漬物や汁物などで活用したのは今や昔。だがHIKOBÉには昔からの常連が訪れキロ単位で買っていく。「ツウの方はそのまま食べます(笑)。練り酒粕に砂糖やはちみつを加えたものを寝る前に食べると安眠できる、と毎晩楽しみにしている年配の方もいるんですよ」と渡邉さん。「栄養豊富で体を温める効果があり、保湿にもいい食材ではあるけれど、醤油や塩のように、ないと困るものではない。馴染みにするのは難しいかもしれませんが、蔵とともに歩んできた五城目町ならではの酒粕文化を、少しだけでも伝えていけたらいいですね」
最近は20代も興味を持って酒粕を買いに来るようになった。中には「酒粕を入れないと味が整わない」とリピートする人もいるという。「汁物に入れたり、マヨネーズに加えたり、もともとあるものに少し足すだけで料理のコクや深みが増します」。カフェで情報発信を続けながら、いつの日か酒粕が日常使いの食材になることを渡邉さんは期待している。
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- 取材・文:川野達子
- 写真:齋藤太一






