秘境駅よりも秘境に湧く、冬季閉鎖の湯
滑川温泉 福島屋

常緑樹が生い茂る山はまだつめたい雪を肌に残し、左右上下に起伏する細い道を雪解け水で濡らす。路傍にはカタクリに蕗の薹、オニゼンマイ。視界を楽しむ余裕があるのも、行く先に確固たる宿の存在を信じているからだ。
ざあざあと流れる川の匂いと新緑の匂いに、濃い硫黄泉の匂いが混じる。たどり着いた『福島屋』は、1763年開湯の滑川温泉の一軒宿。現当主の笹木和夫さんで13代目となる。豪雪期である11月上旬から4月下旬までは宿の4km手前、JR峠駅との分岐点までしか除雪車が入らないので、ほぼ半年間は休業し和夫さんがひとりで湯守・家守をするという。


「今年は特に雪が多かったので、父には苦労をかけました。雪に潰されないよう、雪下ろしをし続けるのも大事な仕事なんです」
そう語るのは、14代目を継ぐ雅生さん。JR奥羽本線・峠駅との分岐点に一棟貸しの無人宿『ECHō』をつくるなど、冬の半年を活性化させるための取り組みにも熱心だ。


開湯の頃の佇まいを残し、修繕を重ねてきたコの字型の宿。ぎしりと軋む廊下や階段、湯治の客室などが往時を彷彿させ実に趣深い。3つの自家源泉からなる4つの湯舟は、加水・加温・循環消毒を一切しない純然たる掛け流し。主泉である「上の湯」は53.6℃の低張性中性高温泉で、胃腸病や糖尿病、動脈硬化症などに効果が期待できる含硫黄–ナトリウム・カルシウム–炭酸水素塩・硫黄塩泉。「中の湯」「下の湯」も泉質はほぼ等質だが、「中の湯」は神経痛にも効能があるという。館内には混浴の大浴場と女性専用の内湯を内包し、専用出口から出た先に2つの露天風呂を擁している。


『福島屋』の代名詞ともいうべき露天の岩風呂は、出口から2分ほど歩いた川べりにある。川底を掘って石組みした湯舟は、まさに大自然にひらかれた原始の湯だ。前川の清流が傍らにあるせいか、火照った顔をひんやりとした風が撫で、思った以上の長湯が楽しめる。檜の露天は、また異なる趣。こちらは目隠しがあるので、女性も気兼ねなくゆったりできる。露天のダイナミズムとは打って変わって、内湯は歴史を感じさせるクラシカルな佇まい。石と木で組まれた高天井に大浴場は八角形、女性専用は半円の湯舟を配したモダンなデザインだ。”険道”とまで言われる道の果てに湧く、乳白色の秘湯。気が済むまで籠ってみたい。


日帰り温泉
- 営業時間
- 9:00~16:00
- 料金
- 大人700円、小人350円
- 定休日
- 11月上旬~4月下旬
- 泉質
- 含硫黄-ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫黄塩泉(低張性中性高温泉)、源泉温度53.6℃、pH7.1
- 浴槽数
- 内湯2(混浴・女)、露天2(混浴)
※取材時の情報です
- 営業時間
- 9:00~16:00
- 料金
- 大人700円、小人350円
- 定休日
- 11月上旬~4月下旬
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※本記事の情報は掲載時の情報です
- 取材・文:ナルトプロダクツ
- 写真:池上勇人



