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天ぷらという料理の本質と豊かさを知る

てんぷら  ひら井

  • 福島市
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記事制作:
Kappo
てんぷら  ひら井

『ひら井』の天ぷらは、言うなれば天ぷらの衣を着た割烹料理だ。ひとつひとつの食材が精緻に分析され、下拵えされ、衣を着せて揚げた時に素材そのものの地力を超えた味わいへと昇華し、完成する。そうなるように、平井真一朗さんは手を尽くしているのだ。

お通しの「いかしんじょう」。八方ダシでふっくらと炊いてある。
「お造り」。〆て2日、ちょうど食べ頃の活鯛と紋甲イカ、甘海老。「廣戸川 特別純米」(1合・900円)

天ぷら専門店ではなく、割烹料理店や会席料理店での修業が平井さんの源流だ。日本料理の”幅”を知ったからこそ、天ぷらという隘路にも見える道に魅力を感じた。

「上手な料理人でも、10人が揚げたら10通りの天ぷらになるんですよ。正解を見つけるのが本当に難しい。だからこそ、おもしろい。天ぷらは、職人冥利に尽きる料理です」

平井さんの劇場は、お通しの一品からすでに始まっている。天種のイカや鯛の下拵えで出た端材を使った「いかしんじょう」や、車海老の殻でとったダシを煮詰めて作った「海老スープの白味噌仕立て」など、「始末の心」が活きたものだ。ダシの旨さ、そして続くお造りの端正にもまた、平井さんの源流が感じられる。

信夫通りから中央通りへ入ってすぐ、ビルの1階にゆかしく掲げた看板。
ほんとうにおいしい「ザ・プレミアムモルツ」(700円)を提供する「超達人店」だけに導入されたサーバーの「泡アート」が楽しめる。

ちゅん、と油のはぜる音がし、カウンター上の皿に懐紙が敷かれた。いちばん最初はやはり車海老。活けのまま殻を剥いて掃除し衣にくぐらせ、勢いをつけ投げ入れるようにして油へと放つ。海老はこうすることで余分な衣が切れ、油切れもいい最高の状態に揚がる。さくっとした衣の食感の後すぐにぷっつりと小気味よい海老の弾力、熱く匂い立つ海老の風味。はくはくと熱さを転がすように噛めば、噛むほどに海老の甘さ香ばしさが広がる。これはストレートに塩でいい。揚げ油は綿実油が8割に太白胡麻油が2割。軽やか。

「活車海老」。海老の「くも足」と呼ばれる部位は、この足のかたちが活けである証拠。これも塩でかりかりと味わう。
「ウニの海苔巻き」。揚げることでウニの甘さがぶわっとふくらみ、ウニも海苔も香りが高まった。わさび塩でアクセントを。
伊達市・保原の「椎茸」。菌床栽培ながら香りと食感が抜群。じゅーっと旨みがあふれ、椎茸のスープを飲んでいるかのよう。

わずか10cmほどのめひかりを、平井さんは丁寧に捌く。中骨をおろし、一尾の状態に戻して揚げることで、口に骨のさわらない、ふわとろの純たるめひかりの味が堪能できるのだ。

相馬の青海苔は平らにかたちを整えて揚げ、よく火の通った香りを強調。

「色のきれいな種は薄衣で。衣がはがれやすいので低温から揚げていきます」

天種によって揚げる時間も温度も変え、衣の濃度や付けかたも変える。ゲストの目には見えないところで、とても緻密な計算が働いている。

『ひら井』劇場の幕間は、自家製のグレープフルーツドレッシングと鮪節の薄削りで味わうグリーンサラダ。油による口の疲れは全くないが、熱々に慣れた口がひんやりと心地よく、酸味が嬉しい。

「めひかり」。魚の天ぷらはキス、メゴチ、ギンポが白眉とされているが、このめひかりはそれにも勝る味わいだ。
「相馬の青海苔」。鮮やかな緑色。さくさくの食感、萌え立つような海苔の香りは、ビールにも日本酒にも相性抜群。

第二幕の始まりは牡蠣の大葉巻き。「天ぷらにすると、食材の水分が抜けて味が凝縮するんです。でも牡蠣は下拵えの段階で水分量を調節してあるので、大葉で巻いて水分を保ってあげるんです」

平井さんに促され、レモン汁にちょいと付けてふっくりと膨らんだ腹の方から味わう。海そのものの塩気、磯の香り、ミルキーな旨みが波のように押し寄せる。大葉の風味もいいアクセントだ。

「腹側の方が旨みが濃いので、ぜひこちら側から食べてください。その旨みの余韻で、二口目のヒモや貝柱側もおいしく味わえます」

平井さんは、こうした味わいかたの提案をコースの中にたくさんしのばせている。次の深谷ネギもそうだ。蛇腹に包丁を入れた深谷ネギを筒切りにし、焦げめがつくほどに強く揚げる。半分に切って皿の上へ。

「横の土佐醤油に断面を浸して、その面を天にして少し時間をおいてください。すーっと下まで醤油が染みたら、食べ頃です」

「牡蠣の大葉巻き」。牡蠣は50℃洗いで旨みの流出を防ぎ、さらに旨みを逃がさないよう大葉で巻いて揚げる。
「深谷ネギ」。これは、鰹節をのっけた焼きネギの味わい。蛇腹包丁のおかげで歯切れもすこぶるいい。

相馬で水揚げされた穴子は、活けのまま2、3日泳がせて胃を空にし、〆たらすぐに捌く。こうして揚げた天ぷらは、あの穴子独特の泥臭さがまったくない。穴子本来の香りを、初めて知ったかもしれない。

最良の天種を求め全国を旅する平井さんの情熱が実ったひとつに、京都の名店「麩嘉」の生麩がある。もっちりとした弾力、ほのかな甘さ、胡桃の芳しさが心地よい。コースの締めは長野の市田柿。「菓子は干柿の甘さをもって最上とす」という先人の言葉に大いに頷く味わいだ。

「穴子」。硬直を起こす間もなく捌くので、身はぷりっとふっくら。鮮度のよさと内臓のきれいさで、皮目の脂も香り爽やか。
「生麩」。開店当初その味に惚れ込み京都まで赴き、「麩嘉」との取引が始まったという。季節ごとに味わいは変わり、今は胡桃麩。
田村市常葉町で栽培している「蕗の薹」。開いて揚げることで花芽の中まで油を回してアクを抜き、ほろ苦さは活かして。
「市田柿」。しっとりと甘い干柿に刻んだ柚子を射込んだものと、クリームチーズと胡桃を合わせたものと。

ここまで天ぷら11品。驚くほどに飽きがこない。ほどよく満腹だが、まだ天ぷらが食べたい。こんな気持ちになる天ぷらは初めてだ。お好みを重ねるもよし、天丼や天茶で大締めとするもよし。平井さんとの会話もまだまだ楽しみたい。

店主・平井真一朗さん。「天ぷらは、お客さんの顔がダイレクトに見えるのがいい。料理への評価が顔に出るわけですから、怖さもありますが喜びが勝ります」
「天茶」(880円)。こちらも小海老と三つ葉。薄口醤油と塩で調味した昆布と鰹節のダシに緑茶を合わせ、熱々を注ぐ。米は喜多方のコシヒカリ。
「天丼」(880円)。小海老と三つ葉のかき揚げに、甘さを抑えあっさりとした風味に仕立てた丼タレを合わせて。味噌汁は3種の合わせ味噌。
「アイスクリームの天ぷら」(コーヒー付き・770円)。バターロールにバニラアイスを射込み、天ぷらに。熱々と冷え冷えの競演。

てんぷら ひら井

住所
福島県福島市置賜町5-13 シルクビル1F
電話
024-522-7064
営業時間
18:00~21:30LO
定休日
月曜
駐車場
なし
席数
12席
予約
可(推奨)
目安
9000円~1万2000円
カード
喫煙
全席禁煙
メニュー
■風 6050円
■舞 7150円
■おまかせ 8250円
■お食事セット 1100円

※取材時の情報です

住所
福島県福島市置賜町5-13 シルクビル1F
電話
024-522-7064
営業時間
18:00~21:30LO
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※本記事の情報は掲載時の情報です

  • 取材・文:ナルトプロダクツ
  • 写真:池上勇人